対米輸出の草分け時代に米国で苦労した川添惣一さんは「当時は米国内に日本製の自動車が少なかったせいか、現在からはとても考えられないようなことがありましたよ」と苦笑いをしながら、次のような想い出話をした。
「ある時、ボストン市郊外の米人ディーラーから新聞広告の切り抜きを送ってきました。
読んでびっくりしましたね。
日産自動車のダットサンを西ドイツ製と称し、しかもギャランティ(保証期間と保証走行距離)を5年間で50,000マイル(約80,000キロ)と書いてあるのです。
当時のダットサンのギャランティは、たしか3年間で3,000マイル(約4,800キロ)だったはずですから、ものすごく差があります。
早速、電話で文句をつけたら、そこのディーラーはこういうんです。
『ダットサンはドイツ犬のダックスフントに発音が似ているから、西ドイツ製ということにした。
性能は本物の西ドイツ製のフォルスクワーゲンに決して負けないと思う。
車も頑丈で、50,000マイルくらいは十分もつ。
もし保たない場合でも3,000マイル以上のギャランティは自分が持つから決してあなたに迷惑はかけない』。
困った私は『ダットサンを高く評価してくれるのはまことにありがたいが、日産自動車としては自社製の車を西ドイツ製にされたり、ギャランティを変えられるのは困るから、この種の広告はやめてほしい』と説得しました。
そのディーラーはなかなか頑固なおやじだったが、さんざん頼んでやっと広告を止めてもらいました。
そのディーラーとしては、そのころ米国内でフォルクスワーゲンの評判がよかったのにヒントを得て、日本製の車というよりも西ドイツ製といった方がよく売れる、と判断したのかも知れません。
とにかく、ダットサンをダックスフントに似ているから、といわれたのには参りましたね。
今の日本の自動車や中古トラックの米国内への進出ぶりから考えると、全く隔世の感があります」